現在、日本では同性婚をすることができません(届け出を出しても受理されない)。
しかし、自治体レベルでは同性パートナーシップ制度が作られるなど、対応が徐々に進んできています。
ただし、現在導入されているパートナーシップ制度は、それぞれの自治体が独自に運用しているため、配偶者控除ができない、扶養の対象になれないなど、法律婚の夫婦とは扱いが異なる部分があるのが現状です。
この記事では、法律婚・事実婚・同性パートナーシップのそれぞれでできることの比較と、同性婚ができなくても使える法や制度&備えられる対策方法について、いち当事者の目線で紹介します。
この記事はこんな人にオススメ
- パートナーが戸籍上同性であっても使える制度をさっくり知りたい
- 同性パートナーシップ制度で可能なことが知りたい
- 法律婚との違いを知りたい
- 保証されていない内容について備える方法を知りたい
※断り書きがない場合、記述のケースはすべて「日本国籍を持つ日本人同士」を前提とした内容です。相手が外国籍の方の場合、事情が異なることがありますので予めご理解の上、当てはまらない箇所については読み替えをお願いします。
法律婚・事実婚(内縁)・同性パートナーシップで出来ることの比較表
法律婚の夫婦 | 事実婚(内縁) | 同性パートナーシップ | |
---|---|---|---|
夫婦の同居・協力・扶助義務 | 〇 | 〇寄りの△ | △(拘束力なし) |
症状の説明、救急車への同乗などの医療機関での対応 | 〇 | △(できない場合も) | △(自治体によっては可) |
同居の子供を家族認定 | 〇 | △ | △(自治体によっては可) |
社会保険の扶養に入れる | 〇 | 〇 | × |
配偶者控除や医療費控除、相続税控除など | 〇 | × | × |
法廷相続人としての権利 | 〇 | × | × |
罹災証明書の交付 | 〇 | △ | △(自治体によっては可) |
個人情報開示請求 (死亡・委任状提出ができない場合) | 〇 | △ | △(自治体によっては可) |
所得課税証明書・納税証明書 | 〇 | △ | △(自治体によっては可) |
家族経営協定による営業許可 | 〇 | △ | △(自治体によっては可) |
公営住宅などへ家族として入居可能 | 〇 | 〇 | △(自治体によっては可) |
家賃補助制度 | 〇 | △ | △(自治体によっては可) |
住宅取得のための給付金や融資利子補助 | 〇 | △ | △(自治体によっては可) |
犯罪被害者遺族見舞金 | 〇 | △(自治体によってはあり) | △(自治体によっては可) |
遺族年金 | 〇 | 〇 | × |
市営墓地・市営霊園 | 〇 | △(自治体によっては可) | △(自治体によっては可) |
福利厚生(公的職員) | 〇 | △(自治体によってはあり) | △(自治体によってはあり) |
新型コロナ等の同室ホテル療養 | 〇 | △ | ×寄りの△ |
【民間】クレジットカードの家族カード作成 | 〇 | △ | △(生計が同一ならOKの会社も) |
【民間】各種家族割サービス | 〇 | △ | △ |
夫婦別姓 | × | 〇 | 〇 |
同性婚ができなくても使える法や制度の例
同性パートナーシップ証明書の発行(医療機関での対応、公営住宅の入居)
自治体にもよりますが、同性パートナーシップの証明書があると医療機関での対応や公営住宅への入居抽選などで使えることが多いです。
携帯用にカード型の証明書を発行してくれる自治体もあります。
パートナーシップ制度に法的拘束力はないものの、証明書はまったく何にも使えないただの紙切れというわけでもなく、携帯電話の家族割契約などでも証明書があればOKだったり、民間を中心に恩恵はじわじわ広まっています。
「法律婚じゃないんでしょ?じゃあいらない」で作らないのはもったいなさすぎます。
自治体に潜在的需要を知らせるきっかけにもなりますし、よっぽどバレが怖いなどがないなら作っておくことをおすすめします。
手厚い自治体では、罹災証明書の交付・同居の子供を家族認定・犯罪被害者遺族見舞金の支給などにもパートナーシップ制度のみで対応してくれるようです。
当初は市区町村単位での導入が多かったですが、最近は県単位での導入が始まるケースも増えてきています。
契約書、公正証書など(準婚姻契約書・任意後見契約・遺言)
専門家の力を借りる必要はありますが、パートナーシップ制度よりもさらに拘束力のある書面です。
とはいえ、生活に関わる内容であったり、財産のこととなると、お互いが同居していない場合には作る意味合いは薄いかもしれません。
準婚姻契約書はどうやら「準婚姻契約」という制度が存在するわけではなく、一般的な契約書や公正証書の内容を「婚姻に準ずる」内容に仕立てるというたぐいのもので、内容は自由に決めることができます。
契約書であればより安価に作ることができ、一方、公正証書であれば「公文書」として作ってもらえるので第三者に勝手に無効にされる恐れが少ないというメリットがあります。
個人的には、同性婚が法的に可能になるまでは「自治体のパートナーシップ制度」+「契約書or公正証書」で脇を固めておくのが何かあったときに盤石かなという印象です。
親戚・家族仲が良好な場合はそれに加えて「親類への紹介・交流」もあるとベストですね。
特に都会の場合、親兄弟くらいまでに知らせておけば、日常のあれこれは事足りることも多いです。
同性パートナーシップだけでは現状どうしても不可能なこと
- 配偶者控除や医療費控除、相続税控除を受ける
- 社会保険の扶養に入る・入れる
- 法定相続人になる
- 遺族年金を受け取る
こうして見てみると、税金関係でかなり損をさせられていることがわかります。
特に賃金水準が低くなりがちな戸籍上女性同士のパートナーシップの場合、こういった制度の対象にならないのは厳しい現状といえそうです。
縁起でもない話ではありますが、遺族年金の対象外にされているのも、言外に「家族ではない者」扱いされているようで、将来的にはこのあたりがスムーズに対応してもらえるようになったらなーという願望はあります。
同性パートナーシップではカバーされない内容の対策法
では上記の「同性パートナーシップだけでは現状どうしても不可能なこと」に対して、同性婚が法制化されるまでまったく為す術がないかというと、そういうわけではありません。
もちろん法律婚・事実婚と全く同じという訳にはいかないですが、法律ができるまでの間も日常はつづくわけなので、今すぐにでもできる対策法についてまとめておきます。
所得税の配偶者控除の対象外→「内縁の妻」でもダメなのでいっそ2馬力で稼ぐ方向性の方がいい
調べていて驚いたのですが、所得税の配偶者控除って「内縁の妻」(=事実婚)でも使えないらしいです。
法律婚に近い権利を持っている箇所もある事実婚ですら認められていないので、現状、所得税の配偶者控除は基本的に法律婚の男女夫婦にしか使えない特権ということですね。
また、所得税の配偶者控除の条件は「配偶者の年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)」であることです。(国税庁HPより)
なので、そもそも最初から共働きフルタイム勤務等で稼いでいるカップルの場合はあまり影響がないかもしれないですね。
片方がパート勤務(一日4時間等)の場合は適用対象になることが多く金銭的にはメリットがあるのですが、傷病手当金などが出ないこともあり、結局は一長一短です。
ただ、この「収入の壁」は近年ニュースで「勤労意欲を阻害してる面があるから取り払おう」みたいな動きが出てきていますし、いつまでも法律婚夫婦の特権として君臨し続けるかというと微妙な所なので、多少苦しくても2馬力で稼ぐ方向性を目指したほうが良いのではなかろうか、という気がします。
相続税の配偶者控除の対象外→配偶者控除は対象外だが基礎控除3000万円分は使える
相続の際の配偶者控除は1億6000万くらいまでOKらしいのですが、残念ながらこれは同性パートナーでは使えません。
が、そもそも、相続する側(亡くなった側)の資産が3000万以下の場合、問答無用で相続税はゼロ円ということみたいです。
そしてこの3000万円は、相続する人の数が多ければ多いほど増えていきます。
資産3000万円以上ある場合は相続税がかかることになり、たしかに親子や法律婚の配偶者に比べると2割ほど高い相続税が必要になるのですが、3000万円を超えるとわかっている場合は有事が起こる前に資産を売却するなり、相続税対策で貯金を用意するなりしておけば対策できるかと。
3000万円を超える資産というと、立地のいいところにあるマンションとかでしょうか。
お金持ちのカップルには頭の痛い問題かもしれませんが、非正規で定収入の身からすると3000万までは相続税ゼロ円が保証されてるとわかっただけでもありがたいです。
社会保険の扶養に入れない→共働きなら問題にならない
「所得税の配偶者控除の対象外」と近い内容です。
そもそも、これについては双方が共働き+自身で社会保険に加入している状態であれば、男女カップルでも扶養に入り合うことはできないので、問題と感じないケースの方からするとあまり重要事ではないかもしれません。(私も含め)
法定相続人になれない→遺言を公正証書にして作成しておく
少し前のところでも書きましたが、公正証書は作成が大変だったり高額だったりしますが、公文書なので第三者に勝手に無効化されません。
たとえ親族・法律婚の配偶者のように自動では法的相続人になれないとしても、遺言を公正証書にしてきっちり作っておくことで対策が可能です。
もちろん、相続人となる他の人たちと関係がよければ、公正証書にしない普通の遺言などのほうが安く上げることはできます。
すべてに応用できる対策:家族・親戚に協力者を増やす、貯金を作っておく
身も蓋もない解決策ではあるのですが、究極の所「家族や親戚が二人の関係に協力的で」「十分な財力がある」場合、法律上の困り事はある程度どうにかなることが多いです。
「LGBTの不都合な真実」の著者の方が指摘する以下の文が非常に的を得ているように感じましたので、引用させていただきます。
LGBT活動家は自分たちを被害者の側に固定化し、「社会が悪い」「制度が悪い」と拳を上げてきました。けれど同性婚が法制化されれば家族や周りの人たちが同性同士の結婚を認めるようになるかというと、そんな簡単な問題じゃない。制度が幸せをもたらすわけではないからです。「同性婚制度がないので相方の葬式に出席させてもらえなかった」「同性婚制度がないのでICUに入れてもらえなかった」という声がよく聞かれます。しかし、そうなる前に、どうして家族とコミュニケーションをとってこなかったのかという問題については、いつも不問に付されるのです。公助は大事。だけど、では自助は必要ないのかと言われればそうではない。地道に二人が努力する姿を見てもらうことで、完全に理解はされないまでも飲み込んでもらえるケースはあるかもしれない。それは男女であっても同じではないでしょうか。
松浦大悟「LGBTの不都合な真実」P94~95
親と険悪だったり絶縁しているケースはどうなんだという声もありそうですが、同性パートナーだろうが異性パートナーだろうが発生しうる問題です。
男女とて、問題があろうが法律婚夫婦になってしまえば親族問題がきれいさっぱり解決…とはいかないわけで、面倒だろうがこのあたりは向き合っていくしかないのだろうなと思います。
無論、いくらでも例外は挙げられるでしょうが、「私はこうしています」という事例紹介に付くクソリプみたいなもので、結局はケースバイケースで実績を積み上げていくほかないのではないでしょうか。
結論:一番の対策は、使えるものは使って実例を作っておくこと
これは私もちょっとそうなりがちなところがあるので反省しないといけないのですが、法律婚の夫婦に比べると戸籍上同性のパートナーと過ごしているとなんとなく「出来ないことが多い」「不利だ」と感じる機会があります。ただし、それらすべてが「同性婚ができないから」が理由ではないんですよね。
よく考えてみるとただ感情的に「なんか損させられている気がする」というだけの場合もけっこうあります。
事実、今回調べていて、勝手に「自分たちよりは恵まれてるだろ!」と思いこんでいた事実婚の方々に、意外と制約があることがわかりましたし、相続については資産家でもない限りは心配する必要がないこともわかりました。
また、同性パートナーという切り口であれば最終的に「結婚の法制化」というゴールが描ける部分がありますが、もっと非典型的な暮らし方や家族構成をしている家庭だってあるでしょう。
そう考えると自治体のパートナーシップ制度が存在するだけ、我々のほうが状況は恵まれているのかもしれません。
そんなわけで、せっかく自治体に制度があるのであれば、これを活用し、不足している箇所や改善してほしい箇所について意見を上げる。そして制度で足りない箇所は自分たちで知恵を絞る。
「結婚できないのが悪い」「国が悪い」とふてくされる前に、できることはいろいろあるように感じます。
この記事が「で、この不安はどうすりゃいいのよ!」と悩む、私のような方の参考になれば幸いです。
おすすめ書籍
いくつかの章で国内外の同性婚の課題・展望についてわかりやすく要点がまとめられています。
界隈や左派活動家のノリに違和感を覚える方にはもちろんおすすめですが、同性婚制度に反対する保守派の方がどういう理由で反対しているのかといった他の本ではあまりない視点が掲載されているのも特徴です。
正直、最近の非当事者向けの情報発信は「理解しましょう、受け入れてあげましょう、文句はゆるさん」系のものが多すぎて辟易していたのですが、この本では「どうして今の日本の界隈がそうなっちゃったのか」についても立ち位置を明確にした上でなるべく公平に触れてるので、おすすめです。
少し古い本ですが、副題に「同性パートナーとのライフプランと法的書面」とあるだけあって、同性パートナーをお持ちの方向けに特化した「もしもの時と老後を考えるための本」です。
切り離せる冊子がついているので、二人で記入して持っておくと便利。