辞世の句などで、わりとよく目にすることが多い戦国武将たちの詠んだ和歌。
どういう経緯で詠まれたものなのか、実際にはどんな歌だったのか、
歌を趣味としていた武将の詠んだ歌にはどんなものがあったのか…
綿抜豊昭『戦国武将の歌』がその辺りの疑問に答えてくれる良書だったのでご紹介。
詳しい内容を見ていくとしましょう。
概要
本自体は薄めでコンパクトにまとめてありました。
内訳としてはだいたい以下のような感じです。
- 全51首を収録
(和歌のほか、連歌や漢詩も)
- 信長、秀吉、家康、信玄、謙信ら超有名武将から、歌人として高名な細川幽斎など多方面をカバー
- 一首につき見開き2Pで解説、現代語訳と出典史料名も掲示
こんな感じでまとまっているのでとても見やすい。
各歌に対する解説はもちろん、その歌が「どの史料に出ていたか」をきちんと記載してあるのが好評価です。
出典元を記載しない本は元を辿るのに困ってしまうので、こういう細かい配慮があるのはいいですね。
戦国初期の武将が驚きの収録率!
そしてなんといってもこの本のウリは、「室町末~戦国初期の武将の収録数が多い」こと!
大抵の戦国本だとよくて北条早雲が載っているレベルで、殆どが織田・豊臣周辺武将ばっかりとかそんな感じですよね…
そのあたりを本書『戦国武将の歌』では、きっちりカバーしていて、
- 細川勝元
- 足利義政
- 北条早雲
- 太田道灌
- 長尾為景
- 今川氏親
- 三好長慶
- 安宅冬康
などなど、初期の戦国時代を彩った人物の歌が比較的多く掲載されています。
私の好きな人物ばっかりならんでいて眼福もいいところです。ありがたい。
特に、今川氏親は和歌と連歌でなんと二つも掲載しているうえ、義元&氏真の歌+巻末解説でも今川の話が出ているため、今川好きさんは一読オススメです。
各首解説の内容
各首のページでは歌の意味・読み方と、読む上で必要になる和歌や文学のルールが解説されています。
本人が本当に作ったか怪しい歌については、注意文もあるのでそこら辺を気にする私のような口うるさい読者でも安心。
春日山日記(上杉軍記)にある長尾為景の歌もきっちり解説付きで掲載されてます。
長尾為景の歌に関しての詳しいことは、こちらの記事で別途まとめています。
巻末解説の内容
巻末ではより突っ込んだ「真作・偽作」についての話や歌の成立過程、「なぜ武将は歌を詠んだのか?」などについて解説しています。
本人の歌とはっきりわかる物は少なく、代作とされるものも実際はグレーゾーンに近いとのこと。
また、軍記物に記載されているような歌になると、ほとんど黒に近いグレー(つまり本人が作った歌かは非常に怪しい)。
さらには、作者が他にいるのに武将の歌として広まってしまった「誤伝」の歌もあるそうな。
巻末付録には、より武将の歌について詳しく知りたい人向けの書籍紹介ページがついています。
とはいえ、コンパクトに「武将の歌ってどんなもんなのか」を知るならこれ一冊あればまかなえそうです。
上記のような、辞世の句に特化したバージョンもあります。