珍妙な日本の中世社会を語り明かす対談本『世界の辺境とハードボイルド室町時代』

世界の辺境とハードボイルド室町時代

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『喧嘩両成敗の誕生』でも中世日本のトンデモ実態を紹介してくれていた、清水克行先生の新刊『世界の辺境とハードボイルド室町時代』。
アジア・アフリカ等の辺境を訪れてそれを綴っているノンフィクション作家の高野秀行氏と、
ひょんなことから「中世日本とソマリランドってそっくりじゃないか?」という話が盛り上がって出来た一冊という、大変おもしろい成り立ちの本です。
遅まきながら読んでみましたので、内容の概要と感想をまとめてみました。

どんな本か?

一般的に教科書からでは「よくわからない」という印象を受けがちな日本中世のトンデモで驚きな実態が、トピックごとにライトな語り口でさくっと読め、とっつきやすいです。

清水先生の単著『喧嘩両成敗の誕生』でも似た内容を扱っていますが、そちらは比較的普段から歴史の本を読んでいる人向けの感がありました。
この本ではより一般向けの色合いが濃くなっています。
ですので、前知識がほとんど無くても読み物として普通に楽しむことができます。

細かい裏事情や用語解説も、下に注釈がついているので、突っかかることなく読み進められます。

西股総生先生の城本など、既存のイメージを破壊されるタイプの本がお好きな方なら、ぜひ読んでみて欲しい一冊です。

イメージとぜんぜん違う日本中世のカオスぶり

本書で取り上げられるトピックスは本当に多岐に渡りますが、その中でも読んでいて面白いなと思ったものをいくつかピックアップしてみます。

清水 先ほど言ったように、中世の人々は盗みをすごく嫌がったんですが、泥棒が捕まって、盗まれた物が見つかっても、それは被害者のもとには戻らなかったんですよ。警察権を握っている荘園領主武士が没収するんです。そのことを授業で説明するのにいつも困っていたんですけど、ある時知り合いの女性研究者がいつも授業で使っているというたとえ話を教えてくれて、はっと気づいたんです。
その人は下着泥棒に例えるとわかりやすいというんですね。つまり、女性が洗濯して干しておいた下着を泥棒に盗まれたけど、泥棒は捕まって、盗品は警察に押収されたとします。だけど、その下着を警察から返してもらったとしても、ふつうは使いたくないでしょう。それと同じ感覚で、盗まれた物はもう前と同じではない、けがれた物であって、戻ってきたとしても使いたくないという感覚が中世の人々にはあったんじゃないかと。

(P40)

中世の人たちは物に対して呪術的な認識を持っていて、盗まれた物は、たとえ返してもらったとしても元には戻らないし、代わりにお金をもらってもチャラにはならないと考えていたんじゃないかと思うんです。「一銭でも盗んだら殺す」というのも、たぶんその観念とつながっているんじゃないかな。

(P41)

高野 (中略)中世から近世にかけては、新米より古米のほうが高かったという。
清水 はい。なぜ古米の方が高かったのかを考えて、「古米は炊くと増えるから」という可能性に気づきました。古米は水分が抜けているので、新米よりも多く水分を吸収して、同じ一升でも炊くと分量が増えるんじゃないかと。
(中略)
今でもタイやミャンマーやインドでは新米よりも古米の方が値段は高いと書かれていて、その理由の一つに「古米の方が、量が膨れてお腹がいっぱいになる」とあったんです。
しかも、古米が水を吸うと、その分量は新米の一・一~一・三倍になるという。これは私が史料で見た新米と古米の価格比とぴったり一致したので、中世において古米が高かったのは、炊くと増えるからだという仮説を立てたんです。

(P104)

室町時代はコメ比率の高い雑炊や麺類を主に食べていて、通常の米飯は日常食ではなかったという話題も。

清水 江戸時代はコメ経済になったので、ちょっと変な言い方になりますけど、コメは商品作物なんですよ。それ自体が売りものとして流通するので。あの時代の東北地方などの農民は、年貢としてコメを納めただけでなく、つくったコメを売って、そのお金で雑炊を買っていたんじゃないかと思います。

(P111)

清水 ところが、室町時代の後半ぐらいに中国では銭経済から銀経済に切り替わるんです。そうすると、日本には中国銭が安定的に供給されなくなって物価が不安定になっちゃうんです。さらに日本ではまだ銭売れるぞということで、福建あたりでつくられた粗悪な偽銭も流入することになって、粗悪な銭を淘汰しないと大変だというんで、撰銭令という法令も発せられるんですけど、やっぱり輸入銭はあまりにも不安定だという理由で、ついにコメ経済に切り替わるんです。

(P120)

古代では日本も「富本銭」というメイドインジャパンの通貨を作っていましたが、国家規模で行き渡らせるのが大変なのと割にあわないという理由から、平安末期以降からは中国の貨幣に頼るようになったそうです。

清水 戦国大名は「安堵」と言って、土地や物の所有権を認める書状を出して、たとえば「この田んぼ何反は確かにお前のものである」というような一筆をしたためたりするんですけど。なかには犬の安堵もあって、「犬三匹、お前の所有で間違いない」と書かれた文書が山梨県に残っているんですよ。
そのほかにも、大のこぎり一丁とか、船何艘とかっていう安堵もあって、生業にかかわるシンボリックな道具の所在を認めることで、その経営規模を認めていたんです。

(P149)

田畑のみならずなんと犬の安堵状まであるんですね…。

お次は男性のヒゲ事情。

清水 日本の絵巻物に出てくる中国人は「ほおひげ」を生やしているんです。感じでは「髯」と書くんですが、ほおのひげが中国人を表す文化的コードなんですね。
高野 へえ。
清水 だから、日本人はほおひげは伸ばすもんじゃないっていう意識があって。
(中略)
高野 へえ。日本人はだいたい口ひげと……。
清水 あごひげですよね。だから逆に、中国にものすごく強いあこがれを持っている人は、ほおひげを伸ばしたがるんですよ。

(P155)

歴史学の世界では若きカリスマ研究者がなぜ生まれないのか?というトピックについても。

清水 未知の文書はこれからも発見されるでしょうけど、歴史が大きく変わるような新発見は、なかなかないんじゃないですかね。それに、仮にそういう古文書が見つかったとしても、それを見つけた人が評価されるということはないんですよ。
(中略)
それよりも研究の世界では、既存の史料を読み換えて、こう読めるんだといって、新たな歴史像をつくり上げるほうが高く評価されます。

(P168)

清水 ちなみに中世の史料はもうほとんど活字になっているんですよ。
(中略)
だから、今の若い中世史研究者はくずし字が読めなくてもそこそこの論文が書けます。

(P169)

清水先生の言うとおり、一般人からすると歴史研究=くずし字が読めてナンボの世界に見えるので、意外の感がありますね。ちなみに、江戸時代までいってしまうと今度は活字にしきれないくらい大量の史料があるそうで、研究者的には中世ぐらいの史料量が一番やりやすいんだとか。

清水 織部ぐらいの人なら、それはありえたでしょうね。当時は侍の技芸として、みずから魚をさばくといったこともあったみたいですよ。室町幕府のナンバー2だった細川勝元も料理について、相当詳しい知識を持っていたと『塵塚物語』という本に書いてあります。

(P196)

『塵塚物語』は室町末期の全六巻からなる説話集で、1552年成立と言われています。

高野 中世の頃の味についての記録って、さすがに残ってないんでしょ?
清水 あんまりないかな。「いっぱい料理が出てきた」って書いてあることはあるけど、おいしかったとか、甘かった、辛かったという記述は見たことがないです。

(P200)

意外なことに、中世では味はあまり取りざたされないものだったようです。

清水 学生によく「多数決は暴力的な手続きなんだ」って言うと、キョトンとするんですね。小学生の頃から、多数決は民主主義の基本だって習ってるから。でも、多数決は実は非民主主義的で、それをやってしまうことによって少数意見が切り捨てられる。
中世の人も滅多なことでは多数決をやらないんですよね。だらだら話し合うことによって、白黒つけない。白黒つけちゃうと、少数派のメンツをつぶしちゃうことになるから。だから中を取るというか、ストレートな対立を生まないようにするというか。

(P261)

よく、「中世=あいまいな時代」とネガティブな言い方をされることがありますが、狭い社会の中を衝突なく生きるすべが「あいまいさ」だったのなら、現代の我々も見なおすべき部分があるようにも思います。

清水 中世の社会っていうのは、公権力が網の目のように張り巡らされていたわけではなくて、その及ぶ範囲はきわめて狭かったし、特にお寺とか道とかいった公共の場は権力の埒外だったんです。

(P294)

現代で「公共」というと「パブリック」な方を指しますが、当時の「公権力」は「オフィシャル」ではあったけれど「パブリック」ではなかったというお話。

当時の公共空間(パブリックスペース)がどういう存在であったかについては、以下の記事も参考にどうぞ。

歴史の研究者としてのスタンスについても

本書によると、清水先生の代表著書『喧嘩両成敗の誕生』は、先生の不遇時代に書かれた本であるということで、思い入れもひときわだったそうです。
『喧嘩両成敗の誕生』では、研究者ほど突っ込んだことは難しくてちょっと…という歴史好きでも読めるよう、随所に現代的な言葉遣いなども含まれ、それが軽妙な面白さに繋がっているのですが、
発行した時は「中世日本の混沌とした社会事情を面白おかしく書き過ぎではないか。人の死を軽く扱っているのではないか」と批判されることもあったとのこと。

そのあたりの苦悩やどういう考え方で研究者が本を書いているかといった内容についても触れています。
歴史の研究者がどういった経緯で研究者になったのかやその生態(?)についてもわりとページ数が割かれています。
ですので、いまから大学を目指す中高生にも参考になるかと思います。

内容は以下のような感じです。

高野 歴史学の学者っていうのは、どうやってなるものなんですか。
清水 基本的に古文書を読んで理解できなきゃいけなくて、そのための訓練は独学ではなかなか無理なんですね。アカデミズムの世界に入らないとダメで、在野の歴史学者って、たぶん今はもうありえないんです。

(P228)

清水先生はこうおっしゃっていますが、先のことを考えると在野でも研究者が育てるような環境がないと先細っていくのではないかなと思いますね…
本業歴史学者も大事ですが、副業的に調査している人や研究予備軍になりそうな人を増やすためにも、独学しやすい環境が必要だと思います。個人的に。

最近では学歴・場所不問で歴史学の入門編の講義が受けられる「gacco」のようなサービスも出てき始めています。

また、以下の記事では本書の冒頭部分を読むことができますので、こちらもぜひ。

 HONZ - 読みたい本が、きっと見つかる!
【連載】『世界の辺境とハードボイルド室町時代』第1回:かぶりすぎている室町社会とソマリ社会 - HONZ
http://honz.jp/articles/-/41695
8月26日発売の『世界の辺境とハードボイルド室町時代』は、人気ノンフィクション作家・高野 秀行と歴史学者・清水 克行による、異色の対談集である。「世界の辺境」と「昔の日本」は、こんなにも似ていた! まさ...

以上、異色の対談本の紹介でした。

 

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